人工知能(AI)とは一言で言っても、その運用用途や機能はさまざまで、品質の良し悪しも個体差が大きいものです。どうせAIを作るのであれば、多くの人はできるだけクオリティの高いものを構築したいと考えますが、そこで重要になってくるのが教師データです。AIにどのようなデータを読み込ませるのかによって、その後の学習効率や、学習の成果には大きな差が出てきます。今回は、教師データがなぜAIの質に影響するのかや、具体的な収集方法について、ご紹介します。教師データとは教師データとは、その名の通りAIが目的を達成するのに必要な情報を与えてくれるデータのことで、教師あり学習に不可欠な存在です。教師データの条件教師データと通常のデータを明確に区分づける要素として、前者には正解のデータが付与されている点が挙げられます。教師データは文字通り、人工知能に対して指導を行うために用意されたデータです。そのため、学習プロセスを通じてAIに新しい情報を読み込ませるだけでなく、「何が正解か」ということを明確に定義づけて学習させられるのが強みです。何が正しくて、何が誤っているのかをわかりやすく区別する基準を教師データはAIに提供するため、効率的な機械学習の実践に貢献してくれます。教師あり学習に不可欠な役割教師データの活用シーンとしては、主に教師あり学習が挙げられます。教師あり学習についてはこのあと詳しくご紹介しますが、人工知能開発においては最もスタンダードな手法として、多くの組織で採用されている方法です。教師あり学習の精度を高めるためには、正しい教師データを用意し、AIに読み込ませなければなりません。人間の教育現場でも、優秀な人材を育成するためには、優秀な指導者が必要とされるのと同じく、できるだけ質の高い教師データの用意がAI開発には求められます。教師あり学習とはここで、教師あり学習の概要について、簡単に確認しておきましょう。最もポピュラーなAI開発の手法への理解を深めることで、教師データの重要性をさらに意識することができます。教師あり学習の強み教師あり学習の最大の特徴は、実践が容易で、なおかつ高い効果が期待できる点です。教師あり学習は正解のラベルが付与されている教師データを読み込むことで、簡単にAIに対して答えを提示するとともに、さまざまな例題について触れてもらうことができます。膨大な量の教師データを読み込ませることができれば、典型的な問いに対しては高い精度で回答ができるようになるでしょう。教師あり学習は教師データさえ用意できれば簡単に実践できるだけでなく、運用機会に恵まれているのも特徴です。画像認識はもちろん、迷惑メールのフィルタリングや天気予報など、多くの課題に対して対応ができる汎用性を備えています。教師なし学習との違い教師あり学習が典型的な学習方法として知られる一方、教師なし学習への注目度も高まっています。教師なし学習は、その名の通り教師データを必要とせず、人工知能が自らデータの特徴を発見し、分別を身につけていくという手法です。教師データを容易する必要がない分、実践が容易に思われるかもしれませんが、高度な学習プロセスと学習環境を構築しなければならないため、教師あり学習に比べて運用難易度は高くなります。教師なし学習を大きく躍進させるきっかけとなったのが、ディープラーニングの登場です。ニューラルネットワークと呼ばれる人間の神経回路に着想を得たモデルを採用することで、膨大なデータから特徴を効果的に発見できるようになり、教師データがなくとも高い学習効果が得られるようになりました。教師なし学習は正解のラベル付けが難しい、人間では判別がつかないような問題にも対応しており、自動運転やロボット制御など、高度なAI活用の現場で活躍しています。教師データが重視されている理由教師データとは一言で言っても、その品質については様々です。少しでも質の高い教師データを活用することがなぜ重要なのか、ここで確認しておきましょう。AIの学習効率を高めるため一つ目の理由は、AIの学習効率向上に教師データの品質が直結するためです。質の高い教師データとは、データの意味付けが丁寧に行われているものを指しています。例えばリンゴとミカンの区別が行えるAIを開発したいとき、様々な形状のリンゴやミカンの写真を集めることが必要です。その際、理想的なのがリンゴの場合はりんごが丁寧に切り抜かれていて、ラベル付けが行われているデータです。AIは確実にそれがりんごであると認識できるため、高い学習効果が期待できます。一方、同じリンゴの画像であっても、リンゴの木を丸ごと撮影している画像や、果実が小さくしか捉えられていない画像では、それがリンゴであることを認識するのが難しくなります。また、リンゴとミカンがどっちも写っているのにもかかわらず、「リンゴ」などとラベル付けが行われていると、AIの精度に悪影響をきたす可能性があります。これらの問題を回避し、最小限のデータと学習時間で実用的なAIを開発するためにも、質の高い教師データが必要になります。AI活用の幅が広がっているため二つ目の理由は、AI活用の機会が増えつつある点です。AI活用の実例が次々と登場したり、実際に成果を挙げたりといった情報が増加したことで、多くの企業が独自のAI開発に力を入れ始めています。そんな時に必要になってくるのが、教師データの確保です。AI開発に費やす時間のうち、教師データ収集が大半を占めており、データさえ集まればよりスピーディにAIを生み出せるほど、昨今の技術力は向上しています。教師データの利用価値向上に伴い、それに付随する様々なサービスも登場しつつあります。AIに関わりのない人からすればなんの意味もないデータでも、AI開発を行う人からすればお金を払ってでも手に入れたいのが教師データです。教師データの価値が急上昇していることからも、その重要度の高まりがうかがえます。教師データの集め方教師データを確保するための方法としては、主に以下の2つの方法が挙げられます。合わせて確認しておきましょう。社内データを活用する一つ目の方法は、社内データの活用です。社内に蓄積され、そのまま眠っていたデータを掘り起こし、教師データとして加工することで、利用するものです。教師データへ加工するための手間は発生するものの、外部から新たに調達する必要がないので、経済的な負担が小さい方法と言えます。また、データの加工作業は外部の企業へ委託することも可能です。地味な作業でありながら、ある程度の精度を要するため、社内リソースへの負担を最小限に抑えたい場合、こう言ったサービスの活用をおすすめします。データセットを購入する二つ目の方法は、データセットを外部の企業から購入するというものです。教師データの必要性が高まっていることで、今では多くの企業がデータセットの無償提供、あるいは販売に進出しています。すでに教師データとして提供されているデータは、そのままAIに読み込ませることができるため、データ収集に必要な時間を大幅に短縮できます。迅速にAI開発を進めたい場合、データセットの購入が有効な選択肢となるでしょう。教師データを用意する上で抑えるべきポイント教師データを一から用意する場合、いくつかの注意点に則って収集を始めることが大切です。ここでは以下の3つのポイントをご紹介します。必要な量や質は様々である一つ目のポイントは、AI開発に必要な教師データの量や品質については、状況によって様々であるという点です。高品質な教師データは、あればあるほどAI開発に有利であることはもちろんですが、自社の予算や時間は限られているため、求められるデータには限界があります。また、どんなAIを開発したいかによっても、必要な教師データの質や量は変わってくるでしょう。そのため、教師データの収集についてはそのAIを開発するため、どれくらい用意すれば良いのかをあらかじめ検討しておくことが重要です。目標の達成にはどの程度の時間と予算を必要とするかをそこから逆算できるため、専門家と相談しながら進めていきましょう。運用シナリオを事前に作成しておく二つ目に運用シナリオの作成をあらかじめ行っておく点です。開発したAIをどのように使用するのかによって、事前に必要な教師データの数量も決まってきます。AI運用開始後も、実践経験を経て学習を進められるような使い方であれば、初期の段階では最低限の教師データさえ揃えられれば開発と実装を進められます。どんなAI活用を検討しているのかによって、前準備の負担も変わってくる点に注目しましょう。課題解決に最適なデータを集める三つ目のポイントは、目的とするAIに最適なデータを集めるということです。教師データの質がどれだけ優れていても、そのデータがAI開発につながるデータでなければ、高い学習効果は望めません。リンゴとミカンの区別がつくAIを開発したいのに、イチゴの画像を充実させても、優秀なAIを開発することは難しいものです。データにバリエーションを求めるなら、様々な品種のリンゴの画像を読み込ませると言ったように、課題に則ったデータを用意しましょう。アノテーションとは教師データの作成作業において、重要視されているのがアノテーションの作業です。アノテーションは、あるデータに対してメタデータを付与する作業のことを指しますが、教師データ作成においても重要な役割を果たします。アノテーションの役割機械学習におけるアノテーションは、あるデータに対して正解のラベルとなるメタデータを付与し、教師データに変換する作業のことを指します。これまでご紹介した通り、教師データにはそのデータの正誤判定を定義づける正解データが付与されていますが、この正解データの付与作業のことです。教師データとして成立させるためには、このアノテーションと呼ばれる作業を繰り返し実施し、効率よく学習を進められるよう備えなければなりません。アノテーションで実現することアノテーションを丁寧に行うことで、質の高い教師データの拡充を進められます。教師データの良し悪しを決定づける条件の一つに、正解データがきちんと付与されているかどうかという要素が挙げられます。アノテーションを一つずつ実施することで、機械学習に最適なデータ収集を実現可能です。ただ、このアノテーションの作業を実施するのは、非常に手間のかかる作業でもあります。高度なAI開発ほど事前の教師データを多く必要としますが、その分アノテーションに必要とする時間と負担が大きくなる点に気をつけておきましょう。アノテーションの実施方法アノテーションを実施する上では、以下の二つの方法が一般的です。最適な選択肢を選び、理想的なAI開発を実現しましょう。社内リソースを活用する一つ目の方法は、社内リソースの活用です。社内のAI担当者や手の空いている人材を確保し、フォーマットに則ってアノテーションを繰り返します。最も安価に実行できる方法である一方、膨大な時間を必要とするだけでなく、アノテーションは多くの負荷を伴うため、その分他の業務に支障をきたす可能性があります。優秀なAI人材がいるのにもかかわらず、アノテーションのような単純作業に従事させるのは、離職を促してしまう原因にもなりかねません。スキルのある人間には、より高度な業務を担当してもらうのが理想です。専用のサービスを活用する自社のリソースを圧迫することなく、質の高いアノテーションを実現するためには、専用のサービスを利用するのも一つの手です。アノテーションは今や大きな需要をはらんでいるだけに、アノテーションに特化したサービスも次々と登場しています。FastLabelでは、高度な教師データを作成するのに最適化されたプラットフォームを提供するとともに、優秀なアノテーションチームに依頼できる体制を整えています。データ管理の一元化にも力を入れ、マネジメントにかかるコストを最大で70%も削減することができます。パフォーマンスを常にモニタリングでき、業務効率化にも貢献します。専用サービスの導入をお考えの際には、お気軽にご相談ください。おわりに今回は、教師データの重要性が高まっている理由や、その活用方法、そしてどのように質の高いデータを収集するかについて、ポイントをご紹介しました。高品質な教師データの必要性は年々増加しており、多くのデータセットが販売され、作成サービスも充実しています。社内のリソースを検討しながら、最も高い成果が期待できる手段を選べるよう準備しておきましょう。