成果につながる機械学習を実践する上で、最も重要な処理の一つがパラメータの調整による重みづけです。AIの学習に十分なデータを集めた後は、これらを最も効率よくAIに読み込ませて高い精度を発揮するための方法を探らなければなりません。人工知能開発の最前線を走るディープラーニングの領域では、学習手法としてミニバッチ学習と呼ばれるものが頻繁に採用されています。オンライン学習やバッチ学習のような他の手法もある中で、ミニバッチ学習が採用されているのにはどのような理由があるのでしょうか。今回は、そんなミニバッチ学習の仕組みや、他の手法に比べてどのようなアドバンテージを持っているのかについて、解説していきます。ミニバッチ学習とはミニバッチ学習は、ニューラルネットワークを実施する際に頻繁に用いられている手法です。訓練で用いるデータをいくつかのグループにデータを無作為に小分けして、グループごとの損失関数を計算して平均を算出し、学習を進めていきます。損失関数は、AIにとって最適なパラメータを導くための指標のような存在です。損失関数の値が小さければ小さいほど、AIが導くべき解に最も近いということになるため、この値が最小となるようなパラメータを導く手法の一つがミニバッチ学習というわけです。ミニバッチ学習の仕組みミニバッチ学習を実施する上で重要となるのが、バッチサイズです。バッチサイズは、データをグループに分けた際の数がどれくらいになるのかをあらわしたもので、バッチサイズが小さいほど処理負担は小さく、大きいほど負荷が大きくなり、なおかつデータ一つ一つの個性も失われてしまう傾向にあります。ミニバッチ学習は、小さなデータのグループ、すなわちミニバッチをあらかじめ指定した数だけ計算し、全てのデータがミニバッチに収まるようグルーピングします。ミニバッチをあるだけ計算し、全ての訓練データの読み込みを行います。ちなみに、全てのデータをカバーできた学習1回分の単位を「1エポック」と呼びます。バッチ学習についてミニバッチ学習の特徴を理解する上では、その他の選択肢として比較対象にあるバッチ学習とオンライン学習について知っておくことが助けとなります。まずはバッチ学習の仕組みから確認しましょう。バッチ学習の仕組みバッチ学習は、訓練データを一度に丸ごと読み込ませて学習を行う方法です。ミニバッチ学習ではデータをミニバッチに小分けして読み込ませていましたが、バッチ学習では全データを一気に処理させます。データをミニバッチに分ける必要がないのがミニバッチ学習との違いです。バッチ学習のメリットとデメリットミニバッチ学習では、ミニバッチごとに損失関数を計算していましたが、バッチ学習は全データを対象として損失関数を算出します。これによって生じるメリットとデメリットは、以下の4つです。安定性に優れるバッチ学習はまとめて訓練データを読み込むことのできる方法であるため、安定したパフォーマンスが見込めます。小分けにして計算をする必要もないので、必然的に計算効率も高くなり、安心して処理を進められます。ノイズの干渉を受けづらいデータをまとめて処理するということは、それだけ異常値に鈍感になり、学習結果にノイズが現れる心配もありません。一度の計算におけるデータ数が少ないと、異常値による悪影響を受けやすくなるものですが、バッチ学習は以下二つのアプローチよりもノイズ耐性に優れます。計算に多くの負担がかかるバッチ学習は確かに信頼性の高い計算結果を得られる一方で、そもそも計算負荷がとても大きいという懸念点もあります。全データをまとめて扱うので、マシンのメモリ消費量は最も大きくなる手法です。マシンパワーが十分でない場合、バッチ学習はかえって非効率な手法となりかねません。リアルタイムの処理には不向きバッチ学習のもう一つのデメリットが、全データをまとめて計算するゆえ、新しいデータへの対応力がないという点です。例えば時系列データを扱う際など、次から次へと新しいデータが登場する場合、バッチ学習は一から全てのデータを毎回学習し直さなければなりません。モデルを新規データが現れるたびに作り直すという、非効率な事態に陥ります。そのため、リアルタイムで常に学習を行うディープラーニング活用に、バッチ学習は不向きです。オンライン学習について続いては、オンライン学習です。こちらはバッチ学習と比べ、正反対のパフォーマンスを発揮するのが特徴です。オンライン学習の仕組みオンライン学習では、学習データをデータセットの中から毎回ランダムに一件抽出し、モデルの学習を実施します。バッチ学習は全データを一度に、ミニバッチ学習はミニバッチに小分けしたデータ群を一件ずつ扱っていたので、最も繊細かつスピーディに学習を進められるのが特徴です。オンライン学習のメリットとデメリットオンライン学習も、バッチ学習同様メリットとデメリットが均等に存在します。以下四つを確認しておきましょう。計算負荷が小さいオンライン学習の最大のメリットは、計算負荷の小ささにあります。データを一件ずつ扱うのでメモリ消費量が最も小さく、マシンの性能に影響を受けづらい特徴を持ちます。リアルタイムの計算処理に強いオンライン学習は一件ずつの計算処理を採用しているため、常に更新される最新データ情報も柔軟に取り入れることができます。リアルタイムの情報のインプットに適しているため、バッチ学習では対応できないケースにも適用できます。ノイズの影響を受けやすいデータを一件ずつ処理するということは、異常値への耐性が低いということです。一件一件のデータに左右されやすいので、異常値が混ざっていると学習精度に悪影響を及ぼす可能性が高まります。安定性に欠けるパラメータの更新をデータ一件ごとに行うので、学習を安定させることが難しいのもオンライン学習の懸念点です。データをまとめて処理しないということは、計算スピードとしては全データを扱うバッチ学習に劣るので、効率的ではないと感じられる場合もあるでしょう。ミニバッチ学習の特徴対照的な性質を持つバッチ学習とオンライン学習ですが、それぞれの間の特徴を持った学習方法が、ミニバッチ学習です。上記の特徴を踏まえ、改めてミニバッチ学習の性能を確認しましょう。計算速度まず計算速度ですが、バッチ学習には劣るものの、オンライン学習よりは早い傾向にあります。データを一件ずつではなく、ミニバッチでグループ化して対応するので、オンライン学習よりは速度の改善を促せます。安定性学習の進行についても、安定性はバッチ学習に劣り、オンライン学習に勝ります。異常値の影響異常値の影響は、オンライン学習よりは影響を受けにくいものの、バッチ学習よりは受けやすいと言えます。メモリへの負荷メモリ消費量は、オンライン学習より大きくなる一方、バッチ学習より軽減される傾向にあります。ミニバッチ学習活用のポイント上記のような特性を踏まえ、ミニバッチ学習は最も安定した成果を得やすい手法として、ニューラルネットワークの分野で大いに活躍しています。最後にミニバッチ学習をより効果的に運用するための、2つのポイントをご紹介します。学習率に注目する1つ目のポイントは、学習率です。学習率とは、一度の学習でどれくらいパラメータを調整するかを表す指標です。学習率が大きいほどパラメータの調整が大幅に行われ、逆に小さいと小幅の変更に留まります。学習率が大きい場合、損失関数が最も小さくなる部分を微調整によって見出すことが難しくなりますが、逆に小さいと効率よく学習結果を得ることが難しくなります。学習率を必要に応じて調整しながら、ミニバッチ学習を実施しましょう。バッチサイズを小さくする基本的に、バッチサイズは小さいサイズから始めるのが効果的です。というのも、バッチサイズが小さいと学習にかかる時間を短くできるだけでなく、データの個性を尊重しながら学習を進められるためです。ただ、バッチサイズが小さい場合はノイズの影響を受けやすくなるため、対策が必要です。そこで役立つのが学習率です。小さいバッチサイズで学習率を大きく設定することで、ノイズの影響を受けにくくできます。異常値を読み込んでしまって最適解を得られなくなったと感じた場合、学習率を大きくして対応しましょう。まとめミニバッチ学習は、バッチ学習とオンライン学習の中間にあたる学習アプローチであるため、最も安定して結果を得やすい手法と言えます。ミニバッチ学習をさらに効果的に運用するためには、バッチサイズと学習率に注目し、調整を行わなければなりません。どの塩梅が最も結果を得やすいのか、というのは学習モデルにもよりますし、データサイエンティストの経験がモノを言うシチュエーションです。何度も学習を実行し、AIに最適な学習を促せるようスキルアップを実現しましょう。