人工知能(AI)の開発と運用は、今や多くの企業で実践される身近なテクノロジーとして浸透しつつあります。AIの開発を進めていく上で、重要なプロセスとして機械学習があります。機械学習にはいくつかのアプローチがありますが、教師あり学習は、AI開発においては最もポピュラーな学習方法として広く普及しています。実践難易度も低く、汎用性があるため、AI開発に初めて興味を抱いたという人はここからスタートさせていくことになります。今回は、機械学習におけるアノテーションの重要性や、運用時のポイントについて紹介していきます。アノテーションとはアノテーションを日本語でそのまま訳すと「注釈」といった意味が当てはまりますが、機械学習におけるアノテーションは、学習させたいデータの理解を促すため、メタデータを貼り付ける作業のことをさします。私たちが普段誰かに対して情報を提供するときも、用語や数字だけを渡すということは少ないものです。迅速な理解を促すために補足事項を加えて情報を共有します。アノテーションは、これから学習を進めていくコンピューターに対して、学習データをより効率よく吸収し、AI開発に役立てるために行う作業です。ここでいうメタデータとは、理解を促すための補足事項のことを指しています。メタデータはメタタグと呼ばれることから、アノテーション作業そのものを「タグ付け」と称することもあります。学習データという本体に対して、メタデータというタグがぶら下がっているイメージになります。メタデータの中身は、開発者がAIに対して「これが正解」と理解させるための情報が記載されています。例えば、りんごの画像を認識できるAIを開発したい場合において、りんごの画像データに対してアノテーションを実施する際には、りんごの画像にメタタグとして「りんご」、あるいは「◯」などを付与します。一方で、みかんの画像には「みかん」あるいは「×」などを付与し、りんごとの区別を明らかにします。機械学習におけるアノテーションの役割アノテーションを実施することによって、どのような効果が得られるのでしょうか。アノテーションの役割をまとめると、以下の二つになります。教師データの提供一つは、教師データの提供です。教師データとはメタデータが付与された学習データのことを指しており、教師あり学習の運用には欠かせません。そもそも教師あり学習という名前も、教師データを必要とすることを由来としています。教師あり学習における「教師」とは、教師データに含まれるメタデータのことを指します。つまり、アノテーションを行った開発者がAIの間接的な「教師」となり、効率的な学習を実現します。安定した精度のAIの開発教師あり学習はAI開発手法の中でも、安定したパフォーマンスを発揮できます。コンピュータに対してただ無作為にデータを読み込ませても、そのデータが持つ意味や判断の軸がないため、期待した結果を得ることは難しいです。しかし、アノテーションによってメタデータを付与することで、学習の方向性や、正解を効率よく吸収することができ、精度を高めることができます。小学校で子供たちに算数の計算問題の解き方を教える時も、教師が子供たちに解き方を教えながら、演習問題へと取り組ませます。教師あり学習はこのプロセスに近く、短期間で必要な情報をAIへ学ばせるのに役立っています。アノテーションの種類アノテーションによるタグ付けの作業は、どのようなデータを扱うかによって作業内容が変わってきます。ここで主なアノテーション作業の種類について紹介します。テキストデータ幅広い目的で実施されているのが、テキストデータのアノテーションです。顧客データベースの読み込みを効率化するために行われたり、SNSやその他テキスト主体のWebサービスにおけるデータを活用するために行われたり、あるいはサービス改善のために実施されることの多いアノテーションです。具体的な作業としては、顧客名簿における名寄せ作業や、テキストデータの分類、さらにはSNSにおける誹謗中傷関連のワードの自動抽出などのためにアノテーションを実施するケースも増えてきています。画像データ画像データにおけるアノテーションは、先ほど挙げたりんごの画像認識のような作業が発生します。画像データのアノテーションも頻繁に行われている業務で、画像認識や分類を効果的に実施できるよう行われます。画像の読み込み方法にもいくつかの種類があり、画像のなかに何が写っているかを判別する画像認識、画像の中にどんな形のオブジェクトが存在しているかを判断する物体検出と、目的に応じて捉え方が異なります。静止画だけでなく、動画のアノテーションも同様のプロセスで実施されます。音声データ音声データのアノテーションも、音声の自動認識には欠かせない業務です。特定の音声に対して文字起こしを行ったテキストデータをメタデータとして付与するなどして、機械学習による音声データの解釈をサポートします。音声入力機能や、自動文字起こし機能、翻訳機能など、音声データのAI活用も急速に進歩しており、見逃せない領域となってきました。機械学習にとってアノテーションが重要な理由機械学習にとってアノテーションが重要な理由は以下の2点になります。データ品質がAIの精度に直結するためそもそもAI開発において、重要なプロセスとしてデータの収集、及び下準備があります。AIの学習モデルは、高品質のデータがあれば相応のパフォーマンスを発揮してくれます。しかし、学習モデルに読み込ませるためのデータの品質が劣っていると、どれだけ高度な学習モデルがあったとしても、満足な精度を実現することはできません。AI開発の成功の可否はデータ収集および下準備にかかっていると言われています。良いデータを集めることも重要ですが、そのデータに対してアノテーションを実施することも、AI開発の質を向上させるためには不可欠になってきています。開発効率向上のためただ無作為にデータを集めるだけでは、効率よくAI開発することができません。肝心なのはAIに対してインプットしたデータから効率よく特徴量の抽出してもらうことで精度を上げることです。教師データは開発者の意図に則ってデータの「読み方」を指導しているので、AIは最短ルートで学習を進められます。一つのデータから確実に学びを得られる学習環境を用意できるため、アノテーションを実施することは大切なプロセスになります。アノテーションを行わずに機械学習はできるのか?ここまで、アノテーションの重要性については多く説明してきた一方で、もう一つ紹介しなければならない点が残っています。それは、アノテーションを行わない機械学習のアプローチについてです。実は、近年のAI開発の最先端を行くのはディープラーニングと呼ばれる、教師データを必要としない機械学習の手法です。日本語では深層学習と紹介されることもありますが、この方法を活用することで、教師データがなくともAI開発を進められるばかりか、より高度なAIの開発を実現することができます。教師データを必要としない「教師なし学習」一般に、教師データを必要としない機械学習手法は、教師なし学習と呼ばれています。教師なし学習はディープラーニングを活用して実施されており、アノテーションが行われていないデータで機械学習を進めることができます。ディープラーニングは、ニューラルネットワークと呼ばれる人間の神経細胞から着想を得た仕組みを用いて実施されています。データを処理する際に多重構造のネットワーク内を行き来させることで、データから直接特徴量を抽出できる技術です。教師あり学習の場合、AIが意思決定を下す際に必要だったデータの特徴は、人間が付与したメタデータから獲得していました。しかし教師なし学習の場合、ニューラルネットワークによって自発的に特徴を獲得できるため、アノテーションの必要はありません。少ないデータで学習モデルを構築できる「自己教師あり学習」近年、このディープラーニングの技術を活用した新しい手法として注目されているのが、自己教師あり学習です。自己教師あり学習は名前に「教師あり」と入ってはいるものの、厳密には教師なし学習の一種です。自己教師あり学習が特徴としているのは、学習モデルが自らデータにメタデータを付与し、その上で教師あり学習を実践できるという点です。これまで、教師あり学習というのはアノテーションを通じて人間がメタデータを付与してきました。しかし自己教師あり学習では、コンピュータが独自にメタデータを発見し、付与することで、教師あり学習を完結できます。教師あり学習のプロセスを踏みながら、アノテーションをする必要がなくなっている点が大いに注目されている理由です。いずれにせよ高度な技術が必要に「教師なし学習」や「自己教師あり学習」は、教師データを必要としないため、AI開発の効率性を飛躍的に向上してくれるものとして大いに期待されています。また、人間では判別がつかないような特徴について発見することができるという点も期待されています。いずれの技術も実践のためには膨大なデータ量とハイスペックなマシンを必要とするためにレアケースになります。アノテーション実施の課題教師あり学習はポピュラーな手法ですが、そのための教師データの確保にも課題が無いわけではありません。アノテーションの実施にはどのような負担が発生するのか、確認しておきましょう。実施コストが大きいAI開発において、必要な教師データの数が増えれば増えるほど、アノテーションを実施するための負担は大きくなります。特に商用利用で求められる精度のAIを開発する場合においては、自社のリソースだけでの対応は非常に困難になります。なぜなら、良い品質のデータを膨大にかつ短い期間で作成するためには、ある程度AIに知見のある人材が取り組まなければが実現ができないからです。人材が不足している近年はDX推進の動きが社会全体で広がってきていることから、AI人材の確保が難しくなってきています。人材を確保しようとしても、簡単には採用ができません。また、アノテーションのためだけにアルバイトを雇うにしても、彼らの採用や研修に時間がかかってしまうことや、マネジメントコストもかかります。自社だけで十分なアノテーションに対応することは非常に難しいです。アノテーションを実施する際のポイントとは?アノテーションを実践することで起因する問題を回避する上で、人材の育成、そしてソリューションの活用が重要です。以下二つのポイントを押さえておきましょう。AI人材になるための環境構築一つ目は、AI人材の育成です。すぐにAI人材を雇い入れることは難しいため、既存社員にAI開発に役立つスキルを習得させるための環境構築が必要です。AIの活用は短期的なトレンドではなく、今後数十年にわたってあらゆる企業に求められます。早い段階からAIを活用する企業文化を育て、社内のITスキルの底上げを行いましょう。アノテーション代行サービスやツールを導入目下のAI人材の不足という課題に対して対応しなければなりません。ここでおすすめしたいのは、アノテーション代行サービスやツールの導入です。Fastlabelは、教師データの作成を代行するアノテーションサービス、及びマネジメントのためのプラットフォームを用意しており、迅速かつ大量の高品質な教師データ作成が可能です。AI開発に知見のある専任アノテーターチームがプロジェクト管理を行うため、要件通りの高精度な教師データ作成ができます。フィードバックや進捗管理は専用のマネジメントツールを使って逐一管理ができ、スケジュール通りの納品と、クオリティの維持に貢献できます。アノテーションやAI向け教師データの確保にお困りの際には、お気軽にFastlabelへご相談ください。