人工知能(AI)の代表的な活用シーンとして、よく例に挙げられるのが画像判定による異常検知です。画像データを読み込むことで、瞬時に正常と異常を見分けられるAIの登場により、多くの企業がその恩恵を受けています。それでは、そんなAIの異常検知はどのような手法を用いて実践されているのでしょうか。今回は、異常検知を実装する際に試したいアプローチについて、おすすめの方法をご紹介します。AIを使った異常検知についてAIを使った異常検知は、提供する商品やサービスに異常がないかを確認する上で起用されている技術の一種です。異常検知を実施する際は、最新の商品画像をその場で撮影し、リアルタイムでその画像をAIに読み込ませ、異常がないかどうかを調べます。従来であればベルトコンベアで流れてくる製品を、検査官が目視や手触りなどで一つずつ検査を行っていましたが、最近では異常検知をAIで実施できるようになったことで、大幅な業務効率化が実現しています。AIを使った異常検知システムは、正常な状態と異常を抱えた状態を見分けられるのが特徴です。高度な学習を経たシステムであれば、人間では見つけられないような異常についても判別が可能なため、精度の高い異常検知を実現します。ちなみに異常検知システムは、画像以外にも転用することができます。例えば空港や街中における不審者の検知や、クレジットカードの不正使用の検知です。正常時の行動パターンや使用パターンを学習させ、それにそぐわない動きが見られた場合に異常として検知する、というのが典型的な手法です。AIによる異常検知の活躍シーンでは、AIを使った異常検知を導入することによって、どのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは画像の異常検知を自動化することの恩恵が大きい活躍シーンについて、ご紹介します。目視判定からの脱却一つは、目視判定からの脱却です。AIを使った異常検知の場合でも、基本的に画像という視覚情報を基準にすることとなるため、ビジュアル以外の情報から判定を行うのは難しいものです。しかしながら、AIによって高い精度で商品の異常を検知できるようになれば、人間が目視で確認する必要はなくなります。検査官一人当たりの負担は大きく減少し、AIが異常を検知した商品だけ精査すれば良いため、品質管理のクオリティ向上が見込めます。業務の属人化の回避二つ目に、業務の属人化を回避できるという点です。検査官の目視による異常検知の場合、検査官の技術に依存するケースも少なくありませんでした。熟練の検査官であれば多くの異常を瞬時に見つけることができましたが、経験の浅い検査官では必ずしも熟練の検査官ほどのパフォーマンスを発揮できるとは限りません。しかし、AIを使った異常検知システムを現場に導入することで、常にハイエンドなパフォーマンスで異常検知を行えます。また、AIは複製が可能なため、あらゆる工場に高品質な異常検知システムを実装できます。結果的に、同じメーカーの中でも生じていた検査の品質のギャップも、AIの登場によって解消できるようになるでしょう。製品クオリティの総合的な向上を目指せるため、更なる規模の拡大やブランド価値の創出へと繋げられます。人件費の削減三つ目に、人件費の削減です。検査官が一つ一つの商品を検査する必要がなくなったことで、少ない人数でのオペレーションを実現可能です。商品点数が多く、出荷のために多くの検査官を起用する必要があったメーカーでも、AIを導入すればわずかな人数での対応ができます。人件費を削減するとともに、余剰人材をより高度な職種に配置できるため、人材不足の解消にも役立ちます。画像の異常検知を実現する主なアプローチ上記のような活躍を見せてくれるAIによる画像の異常検知ですが、具体的な方法としては、主に以下の三つが挙げられます。それぞれの手法の特徴について、確認しておきましょう。教師あり学習教師あり学習は、機械学習手法としては最もスタンダードな方法です。学習モデルへデータをインプットする際、あらかじめエンジニアがデータに正解か不正解かなどを示したメタデータを付与することで、AIの学習精度向上を促すのを特徴としています。メタデータが付与された学習データは「教師データ」と呼ばれ、メタデータを教師として学習の手本とすることから、教師あり学習と呼ばれるようになりました。メタデータを通じて開発者がAIに対して「どんな技術を身につけてほしいか」ということを間接的に方向付けられるため、意図していた通りのAI構築を実現しやすいという特徴を持っています。例えば出荷できるリンゴとそうでないリンゴの判別ができるAIを作りたい時、きれいな状態のリンゴに「◯」、キズや汚れのあるリンゴの画像に「×」とメタデータを付与することで、正解・不正解の前提を理解した上で、両方の画像の特徴の違いを学んでいくことができます。何百・何千パターンもこれらの違いを学習することで、判別能力を身につけていきます。学習データを読み込ませた後は、メタデータがないデータを読み込ませても適切な判定を下せるかどうかが重要になります。教師データはあくまでも訓練用のデータであり、本番環境ではインプットデータにメタデータは付与されないので、本番環境でパフォーマンスを発揮できるかが重要です。教師あり学習の難しいところは、メタデータのない本番環境でも問題なく判定を下せるかどうかというところにあります。いわば補助輪がない状態で自転車を漕ぐようなものなので、十分な補助輪走行による訓練を重ねることで、補助輪に頼らずとも走行ができるようにならなければなりません。教師データの品質、つまりAIに対してメタデータによる適切な指導が行われないと、過度にメタデータに依存してしまい、訓練時のみ高い精度を出して、本番環境では精度が出ないという状態に陥ることもあります。教師あり学習は比較的取り組みやすい機械学習と言えますが、パラメータの調整や教師データの調達には手をかける必要があるでしょう。教師なし学習教師なし学習は、近年注目を集めている最先端の機械学習手法です。端的に言えば、教師なし学習は教師データを用いない学習手法のことを指しています。教師なし学習の登場以前は、AI開発においては教師あり学習が前提となっていたため、教師データの確保に奔走するのがAI開発のスタンダードでした。しかし教師なし学習は、無数の教師データを用意しなくともAI開発ができるだけでなく、教師あり学習よりも遥かに高度なパフォーマンスを得られるとわかり、次世代のAI開発を支える技術となっています。教師データを使わずに機械学習を行うということは、開発者がAIに対して正解を教えず、自発的に発見を促すということです。教師なし学習では学習モデルが無数のデータから自動で判定の基準となる特徴量を抽出し、独自の基準で異常検知を実現できるようになります。このような高度なAI開発を支えているのが、ニューラルネットワークと呼ばれる技術です。ニューラルネットワークは、人間の神経細胞の働きから着想を得たシステムで、何層にも別れたノード層の間をデータが行き来することにより、特徴量を抽出します。ニューラルネットワークを介し、データを深い層まで到達させ、よく噛み砕いて理解を促す手法は深層学習(ディープラーニング)と呼ばれ、次世代のAI構築に欠かせない技術となっています。教師なし学習にも多様な学習アルゴリズムが存在し、現在もディープラーニングを使った様々な手法が開発されています。ディープラーニングを用いた他の教師なし学習手法については、後ほどいくつかご紹介します。強化学習ビジネス向けのAI開発において多用されているのは、教師あり学習と教師なし学習の二種類ですが、もう一つ押さえておきたいのが強化学習です。強化学習は、AIに対して自発的な改善を促すことで、段々とステップアップしていけるようなアルゴリズムを実装する方法です。主にビデオゲームやボードゲームのような、ゴールが明確で、数値化しやすい分野において活躍している技術です。例えばシューティングゲームの場合、主な目的はゲームのクリアや、ハイスコアを獲得することです。強化学習を実装したAIに「ハイスコアを目指す」という課題を与えることで、その目的を達成するため試行錯誤が始まります。特徴的なのは、この際開発者はゲームを動かしたりするための入力データしか与えることはなく、基本的な遊び方や攻略のためのパターンは、自分なりに見つけ出してもらうことにあります。そのため、ゲームの1プレイ目などはまともにゲームを遊ぶことすらできず、100回、1000回とゲームオーバーを繰り返して試行錯誤することにより、ようやく遊べるようになってきます。当初こそおぼつかないプレイングを見せたAIも、数万回、数十万回と繰り返すことによって、確実な成長を見せてくれます。何度もプレイを繰り返すうち、最終的には人間を凌駕するスコアを打ち出せるようになるのが強化学習の強みです。近年は将棋や囲碁をプレイするAIが人間の棋士を凌駕したなどのニュースも見られますが、これらは強化学習を応用した技術です。また、ビジネス分野ではロボットの歩行や車の走行などといったタスクに強化学習が採用されているケースも見られます。ディープラーニングを活用する他のアプローチディープラーニングを活用する教師なし学習ですが、最近では多様な手法へと発展し、より利便性を高めている様子がうかがえます。深層強化学習深層強化学習は、強化学習のアルゴリズムにディープラーニングを採用した手法です。強化学習において基礎となるのは、AIのアクションに対してどのような結果が得られ、そこからどのような改善をするか、というPDCAの繰り返しです。通常の強化学習であれば、人間以上にランダムな試行錯誤が行われてきたため、適切な結果を得るのに時間がかかっていました。しかしディープラーニングを採用した深層強化学習においては、アクションから得られた結果をより丁寧に理解し、成果を得るために最適な次のアクションを、高い制度で判断できるようになりました。深層強化学習の実装により、AIはより高度なレベルのスコアを獲得できるようになり、人間を凌駕するスキルを獲得することも可能となったのです。自己教師あり学習自己教師あり学習は、近年注目を集めている機械学習手法の一種です。自己教師あり学習は「教師あり学習」という名前を冠してはいるものの、実際は教師なし学習手法の一種とされています。自己教師あり学習が特徴としているのは、自ら教師データを生成し、そこで得た教師データをもとに教師あり学習を実践できるという点です。これまで教師データというのは開発者が提供しなければ得られませんでしたが、自己教師あり学習においては最初に読み込まれた少数の教師データをもとに、通常のデータから教師データを生成できるようになります教師データの確保が難しい専門性の高い分野でも、自己教師あり学習であれば少数のデータセットを使って、高い精度のAI開発が可能です。教師あり学習運用のメリットここまで様々な機械学習手法をご紹介してきましたが、やはり安定して使いやすいのは教師あり学習です。教師あり学習を使って画像の異常検知を実践することで、以下のようなメリットが期待できます。実践が比較的容易まず、教師あり学習は運用が教師なし学習に比べて平易であるため、取り組みやすいのが特徴です。教師データさえ確保できれば、あとは読み込み作業を進めていくだけであるため、高度な技術を持ったデータサイエンティストがいなくとも実践は可能です。また、近年は教師データを無料で公開していたり、独自に販売している企業も増えてきています。自社でデータの確保ができていなくとも、これらを入手することで教師あり学習を運用可能です。安定したパフォーマンスを期待できる教師あり学習は、他の学習手法にくらベて高いパフォーマンスを発揮しやすいのも特徴です。教師なし学習を運用する際、課題となるのが大量のデータを集め、最も良い結果が出るまで何度も学習モデルを変更したり、パラメータを調整したりしなければならない点です。一方、教師あり学習の場合は初めから正解データをAIに伝えながら学習を進められるため、教師なし学習ほど学習モデルの構築に手間はかかりません。もちろん、ある程度の試行錯誤は求められますが、それでもデータがAIにとって読み込みやすいように加工されている以上、精度が激しくぶれるリスクも小さいと言えます。画像の異常検知における課題教師あり学習で実践するにせよ、画像を使った異常検知を実現する上では、以下の二つの課題をクリアする必要が出てきます。十分な異常データの確保が必要一つ目の課題は、異常データの確保です。異常検知システムは便利ですが、AIにとってどんな状態が異常であるかを伝えられなければ、正しく異常を検知できない場合もあります。正常・異常の両データが豊富にあるタスクでの運用であれば問題はありませんが、まだ生産が始まったばかりで異常データが少ない、という場合には、AI活用に工夫が求められます。正常データをとにかく読み込み、それに当てはまらないものは全て異常、というように教える必要が出てきますが、予想もしなかった異常データも正常と判断されるリスクを伴います。メタデータの付与に時間がかかる正常データ・異常データの両方を豊富に確保できる場合でも、教師データ作成のためにはメタデータを付与する作業が発生します。メタデータの付与は基本的に手動で実施するため、多くの人手と時間を必要とします。精度の高いAIを開発しようとすれば、その分読み込む教師データの量も増えます。高度なAI開発に携われるデータサイエンティストを作業労働に配置するのも非効率であるため、何らかのテコ入れが必要です。FastLabelが異常検知に役立てることこのようなデータ確保の問題に対処できるのが、FastLabelのアノテーションサービスです。異常検知システムに不可欠な教師データ作成も、独自のプラットフォームを活用していただくことで、効率よく実現できます。専門のアノテーターが教師データ作成に対応FastLabelでは、専門のアノテーターチームが教師データ作成に対応するため、AIに見識のある人物による質の高いアノテーションを実現します。アノテーションは作業労働とはいえ、AI活用に知見がなければ思うようなデータ作成がうまくいかないものです。経験豊富な人物がアノテーションを実現し、迅速に教師データを確保できます。専用のプラットフォームで進捗管理を効率化フィードバックや進捗管理も、FastLabelが提供する専用の進捗管理システムを活用することにより、効率よく対処できます。アノテーション業務を全て単一のサービスに一本化することで、まとめてデータのチェックができ、データ確保に伴う負担を最小限に抑えられます。教師データ確保でお困りの際には、FastLabelへお気軽にご相談ください。まとめAIを使った画像の異常検知システムは、メーカーを中心に様々な分野で活躍しています。異常検知とは一言で言っても、そのアプローチは多様であり、目的や環境に応じた手法が採用されています。最も取り組みやすいのは教師あり学習ですが、教師データの確保などに問題を抱えることもあります。アノテーションプラットフォームや外部のデータセットなどをフル活用し、迅速にAI異常検知システムを整えていきましょう。